歯から全身を、全身から歯を診る、栄養療法歯科

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なぜ栄養が重要なのでしょう?

なぜ歯科で栄養の話をするのでしょう

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食卓

はじめに

歯科で栄養の話だなんて、聞いたことないヨという方がほとんどでしょう。しかし吉田歯科診療室では従来の歯科治療に加えて、栄養による治療も重要な位置付けとなっています。

医学も社会も栄養に重大な誤解をもったまま今日に至っていますが、とりわけ歯の治療にはどんな意味があるのでしょう。ここではそんなお話をしてみたいと思います。

物作りとしての歯科医療

歯科は自然治癒が見込めない「歯」という、生体の中ではひじょうに特殊な部位に特化した医学の一分野です。

ムシ歯で穴が開いたとしましょう。これは絶対に元どおりになる事はありません。ここがカゼやケガなどの他の病態とは大きく違う所です。

なぜ自然治癒がないかというと、歯は細胞ではないからです。歯は生体の中で、もっともモノとしての性格が強い部位なのです。歯の中の歯髄(いわゆる神経)は細胞ですが、一度感染が成立すると、これもまた自然治癒はほとんど見込めません。血の流れが極端に少ないからです。

ですから歯の治療とは悪いところを除去し、人工物で精密に塞ぐ事が最重要課題になり、歯科医師のテクニック一辺倒の世界に陥ります。これは建築や工作に似ており、栄養が関与する部分はまったくありません。

このように歯科医療は物作りが大半を締めるため、医科の一分野であるにも関わらず、あえて法律も教育も分離させたという経緯があります。ここが誤解の始まりで、まるで歯だけは生体から分離独立しているように思われているのです。

細胞の再生を期待する歯科医療

歯そのものに自然治癒はありませんが、それを支える骨や歯肉は細胞であり血が通っていますので、栄養が関与する部分は大きいです。特に歯周病やインプラント周囲炎の治療は骨を破壊から再生に逆転させるために、原因物質の除去と同時に栄養を適切に供給しなくてはなりません。感染による組織破壊から立ち直るだけの活力が必要ということです。

ところが患者さんの栄養状態を診てみると、糖質以外のあらゆる栄養素が欠如しています。ミトコンドリアを動かす鉄やビタミンB群・抗酸化やコラーゲン生成に必要なビタミンC・炎症を停止させるEPA.DHAなどのn-3系脂質・そもそもの原材料であるタンパク質…ときりがありません。これらは一般的な検査データーの読み方では、まったく評価してもらえない…いや、その必要性すら認知されていません。

栄養のアンバランスを是正し、細胞をあるべき姿に戻し体調を整える治療方が、すでに内科や皮膚科・心療内科で実績を上げています。それが栄養療法(分子栄養学・オーソモレキュラ)と言われる方法です。

歯科で栄養療法を行うことはまだまだ珍しいのですが、栄養のアンバランスは抜歯などの手術後の治癒にも大きく影響しているはずです。ただ、歯肉は血流が多くターンオーバー(細胞の新旧交代)も早いので、栄養の不足があっても表面上の治りは良く見えるので、気付かないのです。

歯ぎしりと血糖値の意外な関係

先ほど歯の治療は物作りと書きましたが、物である以上は破損や劣化を想定しなくてはなりません。事実、人工物が割れるだけでなく、自身の歯をも真っ二つに割ってしまうほどの激しい力がかかることがあります。それが歯ぎしり・噛みしめです。

長らく原因が不明だったこの破壊的な力ですが、最近になって血糖値の変動が関与していることが指摘されてきました。

炭水化物の過剰摂取で血糖値が急上昇すると、それを抑えるために膵臓からも急にインスリンが出てきます。

しかしインスリンも過剰放出で血糖値は勢い余って下がりすぎてしまいます。すると今度は副腎からアドレナリンやコルチゾールといった興奮系のホルモンが出てきます。この時筋肉の緊張が促がされ、歯ぎしり・噛みしめが発生するというものです。

すると、食材の選択から食べ方まで、栄養の摂り方ひとつで歯への過大な負担の軽減ができることになります。血糖値の変動を穏やかにすることでアドレナリンやコルチゾールの分泌を最小限にし、副腎疲労を回復させると同時に歯ぎしり・噛みしめの予防になる、ひいては歯の破折防止につながるということです。

したがって虫歯があることは、そのまま歯ぎしり・噛みしめがあることを疑って良いと考えています。過大な力で歯にヒビが入り、そこを起点の虫歯が進行していることは、顕微鏡を使うと頻繁に発見されるのです。

歯科治療で使える栄養療法

以上のように歯科では治療にも予防にも、栄養からのアプローチはかなり使えることになります。では以下に、実際に吉田歯科診療室で行っている栄養医学療法の一部をご紹介いたします。

歯周病

歯周病の罹患率はひじょうに高く、大人ならだれでも持っている病気と思って間違いないでしょう。

歯周病は歯の病気と思われていますが、そうではありません。その名の通り「歯の周り」の病気です。歯の周りとは骨・歯肉・そしてセメント質という部分です。これらはみな細胞ですので、血液から酸素や栄養が供給されています。もちろんターンオーバーもあります。

ターンオーバーの完了より早く細菌の攻撃を受ければ、骨も歯肉も再生が間に合わず、量が減って行きます。簡単に言えば、これが歯周病です。

徹底したクリーニングや手術で細菌の量を減らすことが一番大切ですが、再生を正常化することも大切です。

細胞に栄養が適切に供給されつづければ、これらの問題はかなり解決に近づくものと考えられます。通常の歯周病治療で進行が止められない場合は、栄養からのアプローチを試してみる価値は大いにあるでしょう。

インプラント周囲炎

歯周病とよく似た病態に、インプラント周囲炎があります。インプラントの周りの骨が主に細菌の感染で破壊され、再生が間に合わない状況です。

インプラント周囲の歯肉は、ご自身の歯の周りの歯肉と比べ、ターンオーバーに3倍もの期間がかかります。言い方を変えれば、インプラント周囲の歯肉は自分の歯の周りの歯肉と比べて1/3の活性しかないということです。

健常な方であればそれでも間に合うでしょうが、エネルギー産生や活性が落ちている方は感染に弱いだけでなくターンオーバーが間に合わず、骨は破壊され続けます。

歯周病の進行を止められていないのに、さっさとインプラント治療がされてしまっている事例が最も懸念されますが、しっかり歯周病の管理をやっていたにも関わらずインプラント周囲炎が発症するのは、隠れた栄養失調があることを疑うべきでしょう。

ですから吉田歯科診療室でのインプラント周囲炎の治療は、栄養医学療法は必須項目となっています。でなければレーザーや手術は焼け石に水となってしまいます。

インプラント周囲炎は最も複雑で治療が困難な病態ですが、栄養療法が奏功する余地がたいへん多いのも特徴です。言い方を変えれば、インプラント周囲炎が解決できるだけの栄養改善があれば、全身にも多大な恩恵があるということです。

歯肉炎

歯周炎と似た病名に歯肉炎があります。違いは骨に影響が出ているかどうかで、歯肉炎は歯肉だけに炎症ががあり、骨には問題がありません。歯肉だけの問題ですので、努力しだいで早期に元に戻すことができます。

丁寧に歯ブラシをかけていれば解決しそうな事ですが、実はクラウン(冠・被せ物)の型取りをするときに問題がでやすくなります。栄養状態が悪く炎症が起きやすい歯肉では出血しやすく、痛みが出やすいこともあり、精密な型取りがたいへん難しいのです。

これは虫歯が大きくなり歯肉の下の方まで型取りをしなくてはならない時に最も問題になり、炎症が残っている状態では精密な型取りが難しくなります。手を抜けば痛くない型取りができるのですが、もちろんそれは不正確な型取りにしかなりません。良い治療をしようすると、無理矢理止血したり、歯肉を整形することになり、痛みが発生しやすくなります。これでは私の評判も落ちて(?)しまいます。

炎症のないきれいな歯肉を維持することは、痛くなく早く正確な型取りができる条件です。同時に歯周病や他の全身疾患を予防することができます。

 抜歯・歯周外科・インプラント外科

先に書いたように、外科治療はすべて栄養療法の対象となります。

特にビタミンCは感染予防や治癒の促進にひじょうに有効であり、また抗生物質の減薬が可能です。

高濃度のビタミンCを点滴しながら手術を行うと、肉眼でも治癒が促進されていることが良く分かることがあります。

歯ぎしり・噛みしめ

これも先に書いたように、歯ぎしり・噛みしめは、最終的に歯を破壊し抜歯を決定づける最大の要因です。

食事の力だけで歯が破損することは考えられません。その陰には必ず歯ぎしり・噛みしめが潜んでいます。しかしそれを自覚することはほとんどないので、マウスピースについてくるキズなどで判断します。

またこの強大で破壊的な力はインプラント周囲炎発症の大きな引き金になります。これについてはまた項を改めて書く事にします。

顎関節症

顎の関節が痛い・ゴツゴツ鳴る・ロックして動かないなどの症状を顎関節症といい、若い女性によく診られる病態です。

外傷や、歯ぎしり・噛みしめ、噛み合わせ不良で、顎の関節内にある軟骨を潰したり、腱が断裂したりします。

治療には当然安静が必要ですが、糖質が過剰に入り歯ぎしり・噛みしめが続ければそれは叶いません。

また軟骨や腱の修復に必要な栄養が少なければ、回復も当然遅れます。軟骨のターンオーバーは年単位ですので、再発防止のためにも早急な栄養改善が望まれます。

顎顔面痛や舌痛症

顎顔面痛や舌痛症といった、いわゆる不定愁訴には、抗鬱剤や漢方薬など様々なアプローチが行われています。

しかし必要な栄養が供給されていない状態で、それらの効果がきちんと現れるのかはたいへん疑問です。

この分野は主に大学病院などの専門性の高い医療機関で行われるのですが、栄養療法は保険外診療であり、実行には大学の倫理委員会を通さなくてはなりません。すなわち非常に煩雑な手続きが必要なので、日本での研究は遅れることになるでしょう。

効果が期待出来るだけに、たいへん残念です。

歯科での栄養の応用はまだこれから

栄養療法を積極的に取り入れている歯科医院は、まだ全国に数えるほどしかありません。

しかし栄養系のセミナーに参加すると、歯科医師や歯科衛生士がとても多いことに驚きます。ですから今後どんどん歯科で栄養の話を耳にする機会が増えるでしょう。

もちろん歯科で栄養療法がメインになることはなく、今までの積み重ねの上に、顕微鏡やレーザーなど高度な歯科治療との併用で効果を上げてゆくことになります。

今後の進展に、ぜひご期待ください。







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