腸内フローラって、ずいぶん有名になりましたね。その源流は口、すなわち口内フローラです。
近年問題視されている腸内フローラの乱れ。あれやこれやで改善を目指しますが、源流から悪いものが落ち続けてきている状態には、まだあまり目を向けてもらえていません。
歯を磨くのは、むし歯や歯周病の予防のためだけではありません。
大々ピンチに陥っている現代人の腸内フローラに、歯科からのアプローチがなぜ必要なのでしょうか。
目次
腸内フローラ
私たちが生きているのは、腸内に住んでいる細菌のおかげ。
目には見えませんが、消化吸収やビタミン産生など、とても重要な働きをしています。それ自体を一つの臓器と考えてもよいほどです。
フローラとは「お花畑」のこと。細菌が腸内一面に広がっている様子を花畑に準えた言葉です。
腸内の総面積は、なんとテニスコート一面分!立派な花畑です。
腸内細菌は口から
で、その腸内細菌たちは何処から入ってきたのか?というと、当然「口」です。
基本は生まれてくる時に、お母さんの産道から口に入ったもの。
その後口に入れたもので、徐々に腸内細菌の組成(組み合わせや割合)が決まっていきます。これを「腸内細菌叢」と言います。「叢」とは「くさむら」という意味ですね。
一旦組成が決まると、その後はだんだん悪化していく事がほどんどです。
善玉菌や悪玉菌という名前を聞いたことがあるでしょう。悪玉菌の方が、なぜか増えやすいのです。
抗生物質の多用
悪化の原因は多々ありますが、現代社会で最も問題になるのが抗生物質の多用です。
特に日本は健康保険で抗生物質を安く処方できることもあって使われすぎる傾向にあり、腸内細菌が激減する機会が多いのです。
その後善玉菌が戻ってきてくれれば良いのですが、なぜか悪玉菌の方がさっさと戻り、腸内を占拠して行きます。
もちろん抗生物質はどうしても必要な時があるので、なくてはならないものです。命が助かるのですから、腸内細菌などは二の次・三の次です。
しかしどちらかと言うと抗生物質は無くても良いのに、二次感染の予防を名目に早々と投与することはけっこうあります。
たとえば健常人において、感染が少ない親知らずの抜歯などでは、本来抗生物質は必要ありません。
胃酸抑制剤の多用
悪玉菌が増える原因の一つに、胃酸抑制剤の長期使用が疑われています。
胃酸の主成分は塩酸です。主に消化を司る、つまりタンパク質を分解して小腸で吸収される形にしてくれるものです。
と同時に口から落ちてきた細菌を殺菌する働きもあります。
ところが日本人には胃酸の量がかなり落ちている人が多いのですが、そこに胃酸抑制剤が来るとどうなるでしょう?
消化も殺菌も、さらにうまく行かなくなる事になります。
しかし胃の不快症状に、とりあえず胃酸抑制剤が処方されることはとても良くあります。
症状は寛解するでしょうが、対症療法で原因がそのままですので、薬をやめる事ができません。
すると口にあった細菌を含んだ未消化のタンパク質が腸に移動しますので、体温の36℃でどんどん腐敗して行きます。
最近明らかになってきたSIBO(小腸内細菌過剰増殖)も、小腸の蠕動運動不足で大腸から細菌が上がってくるのに加え、胃酸で死滅するはずだった細菌が小腸に達し定着してしまう事が大きな要因と考えられています。
なお、胃酸については以下をご参照ください。
ついに腸もれに
さらに便秘があると腐敗物の排泄に何倍も時間がかかり、腸が炎症を起こし、腸の精密フィルターが破綻して行きます。
これが俗に「腸もれ」と言われるリーキーガット症候群になります(*)。
精密フィルターがザルになったわけですから、本来吸収されてはならないものがどんどん肝臓に送り込まれます。
これは肝臓にとって極めて迷惑な話。それを優先して分解しないことには、他の仕事ができません。急いでいる時に、余計な電話がかかってくるようなものです。
(*正くは腸透過性 Intestinal Permeability の亢進といいます)
便総合検査で腸内フローラを知る
とにかく現代社会においては、腸内細菌叢の悪化は目を覆わんばかりです。
下痢や便秘があまりに常態化しているので、異常と思わない人が多いようです。
包括的便総合検査というものをすると、ある程度腸内フローラを知る事ができます。
善玉菌や悪玉菌の量だけでなく、未消化物の量や、IgAという腸内の免疫力や炎症の程度を評価することもできます。
善玉菌は増やせるか
では善玉菌を増やすにはどうするか?
ビフィズス菌や乳酸菌といった善玉菌をサプリメントとして口から入れてあげれば良さそうです。
このさい重要なのは、多種類が混ざった製品を選ぶことです。
細菌叢には多様性が重要と言われます。
残念ながら日本の腸内フローラ改善用サプリメントは一種類しか入っていないものが多く、選択肢が狭まります。
以下を参考に選んでいただければと思います。
ところが、これで一件落着…という訳には行きません。
サプリメントで入れた善玉菌は、いつまでも住み着いてくれるわけではないからです。
やめてしまえば、また元に戻ってしまいます。
えー、どーしたらいいんだー???
今いる善玉菌を増やす
先に書いたように、一旦形成された腸内フローラは基本大きく変わることはありません。
そこに不用意に抗生物質や胃酸抑制剤が使われると、悪玉菌の方が増えて行ってしまいます。
しかし少ないながらも善玉菌は生き残っています。そこで、それを増やすエサを入れましょう!というのがまっとうな話。
それがオリゴ糖・水溶性食物繊維・特殊な乳酸菌生成エキスなどになります。
しかしこれでもまだ、思うように増えてくれないようです。
何か見落としはないでしょうか?
先に口内フローラを整えよう
消化管の入口は「口」です。だから悪化する腸内フローラの源流は口内フローラです。
抗生物質や胃酸抑制剤を多用せざるを得ない状態であるならば、なおさら源流からの悪生菌流入を堰き止める必要があります。
単にむし歯や歯周病にしないために歯を磨くのではありません。腸内に悪性菌を増やさないために、イコール消化吸収をまっとうにするために歯磨きが必要。全身を考えた発想が必要になります。
また理屈の上ではありますが、ピロリ菌の除菌を考えている方は、まず口内フローラの改善をしてから行うべきでしょう。
そして歯ブラシは最低でも月一で交換したいものです。
胃酸に耐えて腸に届く善玉菌も
では胃が健全になり、あらゆる細菌やウィルスを死滅させる事ができたら、善玉菌も腸に届かなくなりますね。
ところが不思議なことに、胃酸をものともせずに腸に達する善玉菌がいます。それがロイテリ菌です。
腸内細菌叢には多様性が必要です。従って一種類しか入っていないサプリメントやヨーグルトはお薦めではないのですが、ロイテリ菌に限っては研究成果も多く、一時期の単独摂取もありのようです。
腸内フローラの研究はまだこれから
腸内フローラの研究が本格化したのは、まだ最近の話。わからない事だらけです。
悪玉菌と言ってしまいましたが、おそらく完全な悪ではないはずです。悪あっての善ですから、きっと何か重要な仕事をしているはずです。
ただ、その腸内フローラは古代人のそれとは大きく変わっているはずです。
急増している発達障害や潰瘍性大腸炎などは、腸内フローラの異変と密接につながっているそうです。
解決にはまだまだ時間がかかると思いますが、源流である口内フローラを健全にすることが早期解決に繋がるものと、多くの研究が続けられています。
単にむし歯や歯周病の予防のために歯を磨くだけでなく、全身への影響を考え伝える。それがこれからの時代に必要な生活術となることでしょう。