腸内環境の大切さは、やっと周知されはじめた感があります。いくら食事を気をつけていても、高価なサプリメントを大量に飲んでいても、消化吸収がうまく行っていなければ効果はガタ落ちです。
腸の中では何がおきているのでしょう?それを調べるのがこの「包括的便総合検査(CSA=Comprehensive Stool Analysis)」。平たく言えばウンチ検査ですが、もちろんただの検便ではありません。
目次
測定項目
腸内細菌の分布
腸内にはなんと1.0~1,5kgの腸内細菌が生息し、あなたの消化吸収を手伝ったり、ビタミンの合成をしています。人は腸内細菌の力を借りて生きているのです。乳酸菌やビフィズス菌はその代表で、善玉菌と呼ばれます。検査結果でこれらが4+ならOK.
しかし中には悪い奴がいて、消化吸収の邪魔をしたり、有害物質を産生したり、腸のフィルターを破壊します(LGS リーキーガットの事です)。代表的なのがカンジダ・ウェルシュ・クロストリジウムディフィシスというやつで、悪玉菌と呼ばれます。悪玉は年齢と共に増加して行きますので、「腸内年齢」が高齢化しないように気をつけなくてなりません。
また日和見菌とか境界菌と呼ばれる、善玉と悪玉の中間がいるのですが、これは善玉優勢のときは善玉に、悪玉優勢のときは悪玉に働きます。ですから生活習慣の中で、いかに善玉を増やすかが鍵になります。日和見菌は抗生物質やステロイドの乱用で増える傾向にあります。
注意しなくてはならないのはカンジダで、これは腸管壁に食い付いて離れないので、大便にはなかなか着いてこないので検査としては不確実。ですから有機酸検査と合わせて診断しなくてはなりません。
腸内細菌の種類や数は、抗生物質服用でバラバラになります。抜歯後の抗生物質はもちろん、ピロリ菌の除菌を行った後は特に注意が必要ですが、これは一般に知れ渡っていることではありません。
消化酵素の出具合
エラスターゼという項目で、消化酵素の能力を推察します。最低でも200はほしいのですが、けっこう低い方が多いです。
消化不良の程度
野菜の繊維・肉の繊維の残渣を観察して、消化の程度を診ます。すぐに膨満感がでる人はこの結果が悪いです。
また炭水化物や脂肪分の残りも診ることができます。脂肪分が多く残っているということは胆嚢の機能低下が疑われ、ビタミンAやDなどの脂溶性ビタミンの吸収が悪いことが予想されます。
歯が悪くて噛めなかったり、早食いの癖がある人は、とうぜん繊維が多く検出されます。つまり食材が有効利用されていないという事です。
腸が炎症を起こしているか
体のどこかに炎症があると、血液検査でCRPという項目が上がるのですが、腸は炎症を起こしてもあまり上昇しません。
しかしラクトフェリンとかライソザイム(リゾチーム)という項目が上がっていると、炎症があるだとろうと読みます。ライソザイムの基準値は600以下ですが、専門の先生に訊くと200以上あったら過敏性腸症候群(IBS)を疑うそうです。
潰瘍があると白血球も出てきます。
腸管免疫能
腸粘膜表面は、免疫の最前線であるIgAというガードシステムが働いています。この数値が上がっている場合は、精神的ストレスや、カンジダ増殖などで免疫に攻撃が加わっていると考えます。
逆に下がっている場合は疲れて上昇すら起こせないと読み、かなりガードが疲弊している事になります。したがって上昇していたのが下降しはじめたタイミングで検査をしてしまうと基準値に入ってしまい、判断を誤ります。ですから事前の問診はとても重要になります。
腸のエネルギー源があるか
実は大腸のエネルギー源は、善玉菌が食物繊維を分解して生産する「短鎖脂肪酸」というものです。これが少なければ、大腸はフラフラということになります。
効果のあるハーブの判定
大便に悪玉菌が付着してきた場合、培養してそれを叩くことができるハーブ系抗菌剤は何かを調べた結果がついてきます。
…これ以外にも様々な結果がでてきます。腸は免疫の70%を司る重要な臓器で、感染を扱う歯科口腔外科では腸の働きをもっと重視してよいと考えています。
検査方法
検査キットは以下の写真のようになっています。有機酸検査と同様に保冷剤が入っていますので、予め冷蔵庫に入れておきましょう。
検査2日前からは、胃腸薬・アスピリン・消炎鎮痛剤・抗生物質・鉄サプリ・ビタミンCサプリの使用を停止します。また乳酸菌製剤を使用の場合は中止はしませんが、薬品名を予め知っておかなくてはなりません。また多量の肉摂取も控えます。
大便は毎日性状が変わるため、一回だけでは検出しきれず、2日分を採取します。ここがネックになるのですが、つまり一回目の検体を冷蔵庫で保管しておかなくてはならないので、誰かに見つかるとたいへんです。コッソリやりましょう。
また便秘の方はなかなか2日連続で採取できず、結局一回分の検体だけで検査に出すことになります。そのぶん精度が落ちてしまいますが、これはもうしかたがないですね。何も解らないよりも、よっぽどましです。

包括的便総合検査の検査キット
歯科口腔外科での応用
ということで、この包括的便検査は多少面倒なのですが、得られる情報はかなり多く、他に変わる検査がありません。いろいろな検査をしている人でも、この検査だけはしていないという方が多いようです。
私たちの所では手術前評価やメンテナンスの指標として、また歯周病やインプラント周囲炎の治療の方に測定していますが、腸内細菌の質が良くなく、長年抗生物質の悪影響を受けてきたり、カンジダやストレスの影響で消化吸収が廻っていない方がみられます。
手術で抗生物質を使わなくてはならない場合、最初から腸の状態が悪いと不快症状が出やすいことになり注意が必要です。
また高価な乳酸菌製剤を使っているにもかかわらず、検査で乳酸菌が1+と少ない方もおられました。これは相性の問題で、同じ乳酸菌製剤ばかり使うよりも、違う製品を使って多様性を持たせる必要があることを示唆しています。
サプリメントに頼らずに食事だけで栄養を摂りたいとおっしゃる方が多いのですが、であればなおさら腸内環境を即刻整備するべきでしょう。そしてきちんとした噛み合わせができる歯で、最低でも一口30回、できれば100回噛むことで低下した腸の機能を助けることができます。
子供の頃から柔らかく加工された食材に慣れており、たいして噛まずに飲み込む習慣から抜け出せないと、腸内環境は悪化の一路を辿ります。病気とは実はこんな経路で発症して行くのです。
とにかく腸が超重要、特にサプリメントの効果が出ずに困っている方には是非やっていただきたい検査の一つです。
なお検査には誤差や検出限界というものがつきものです。この包括的便検査はバラツキが出やすく、これだけで判断してはいけません。最低でも血液検査が必要で、できれば毛髪ミネラル検査と有機酸検査と併用し、またアンケート(問診)も重要な判断材料となることを忘れてはいけません。
《参考サイト》
- 腸内環境検査 ドクターズデーター社
- 便総合検査(CSA) 栄養療法.jp
- 包括的便検査(CSA) 慢性疾患 本当の原因