歯から全身を、全身から歯を診る、栄養療法歯科

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なぜ栄養が重要なのでしょう?

EPA DHAを歯科口腔外科で使う理由

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EPA DHA

EPAとDHA。どちらもフロントに常備し販売しております。もちろん吉田も常用しています。

吉田歯科診療室の受付では何種類かのサプリメントを扱っていますが、その中にEPAとDHAがあります。両者とも、歯科治療に伴う体質改善が必要な方にお奨めしています。なぜ歯科口腔外科でEPA・DHA製剤を扱うのか、臨床分子栄養学研究会認定指導医吉田格が解説します。

EPA DHAは炎症を収束させる

EPAもDHAも、よく新聞広告なんかで見かけますよね。その本体は魚から抽出した油の一種(魚油)で、両者ともn-3系とかω-3(オメガ3)系と呼ばれています。

n-3系を適正値にすると、心臓病のリスクが低下することが知られています。

しかしそれ以外にもn-3系は、体内で炎症を収束させる物質に変化するという、とても重要な働きをします。

ところが現代人は、このn-3系がかなり不足している、つまり炎症が残りやすい体質なのです。

炎症とは生体の防御反応ですから、必要な時に起きてもらわなくてはなりません。この時に使うのがn-3系ではなく、n-6系の油です。

n-6系には、アラキドン酸やガンマリノレン酸などがあり、これは肉や調味料に多く含まれています。

ところが現代食には何にでもn-6系が入っており、よくある食生活をしていると間違いなくn-6系過剰になります。逆にn-3系は少なすぎて問題なのです。

なおEPAはエイコサペンタエン酸、DHAはドコサヘキサエン酸の略称です。

脂肪酸4分画

n-3系もn-6系も、体内で合成されることはありません。したがって、絶対に外部から食事として摂取しなくてはならない栄養素で、これを必須栄養素と言います。

で、問題はどれだけ摂ってるかですが…

上の表は「脂肪酸4分画検査」と行って、最近私たちが行う血液検査では必ず加えている項目です。で、みなさん押し並べて、偏った結果になっています。

具体的にはn-3系であるEPAと、n-6系であるアラキドン酸の比率(EPA/AA比と言います)を診ることが多いのですが、これを改善してほしいのです。

先に書いたように、n-3系の油は炎症を収束させる働きがあります。しかしこれが少ないと、せっかく炎症の原因が片付いても、いつまでも炎症がダラダラと続きやすいことを意味します。

例えば歯周病では、きちんと治療をして細菌が減っているにも関わらず、小さな腫れや出血が収まらず、いつまでも骨が再生してこないことが予想されます。

また不完全な歯内治療により生じた根尖病変も、同じ理屈で痛みが取れなかったり、骨が再生して来ないことになります。

レゾルビンとプロテクチン

根管治療

抗炎症性脂質メディエーターを用いた新たな歯の根の治療法を開発(岡山大学)
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press30/press-190221-10.pdf

抗炎症性脂質メディエーターのレゾルビン D2を用いた歯内療法を行うと、歯根の先の炎症を抑えるだけではなく、歯根の先端を閉鎖して顎骨を再生させることが分かりました。

実際に上のような研究があります。

根管治療を適切に行っても、レントゲンで病変が解決しない(骨が再生しない)事を多々経験しますが、それに対する答えがコレかもしれません。

岡山大学の研究では、n-3系から作られた物質(レゾルピンとかプロテクチンて言います)を根管治療に使ったところ、骨が再生したとの事でたいへん注目されています。

もちろんこうなるためには、感染がない状態になるように正しい根管治療を行わなくてはなりませんが。

歯周病

ω3系脂肪酸由来の抗炎症性代謝物の構造と機能(生化学 第80巻 第1号)
http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/80-11-08.pdf

  • 生体にとって一度誘発された炎症反応は適切に収束されなければならず、この制御機構が破綻すると慢性炎症や組織障害へと発展してしまう。実際に慢性炎症状態において何らかの原因から炎症の収束が適切に起こっていない可能性が指摘されている。
  • EPA由来のレゾルビンE1と、DHA 由来のプロテクチン D1に、好中球の遊走抑制・炎症性サイトカインの産生抑制などの活性が認められた。

もう一つ文献を引用。上の表では一番上に、レゾルビンE1がウサギの歯周病のPG菌に対する骨吸収抑制と治癒亢進として紹介されています。

その他、腹膜炎・喘息・脳梗塞・アルツハイマー病など、多くの炎症を伴う疾患治療へのn-3系代謝物(レゾルビンとプロテクチン)の可能性について触れています。

アラキドン酸も炎症を収束する物質に変化

脂質メディエーターからみた外科侵襲学の新知見
(エンドトキシン・自然免疫研究 21:12〜17,2018)

https://www.juntendo.ac.jp/graduate/laboratory/labo/seikagaku_seitaibogyo/jeiis/pdf/No21/No21-2-02.pdf

ところで面白いことに、炎症を起こさせるだけと思っていたn-6系のアラキドン酸は、LOXという物質を介し炎症を収束させるリポキシンという物質に変化するそうです。上の図がそれです。これにはちょっと驚きました。

するとEPA.DHAを摂ること以外に、このLOXを活性化させることでより炎症を収束させる方に向かわせる事が可能になります。

実はその作用があるのがアスピリン(アセチルサリチル酸)だというのですから、またまた驚きです。以下がその文献です。(一部改変してあります)

  • かつては受動的な生体反応として捉えられてきた炎症の消退反応は,実は組織を恒常的な状態へ帰還させるための能動的な過程であることが示されてきた。
  • アスピリンは,シクロオキシゲナーゼCOX-2のアセチル化を通じてリポキシンなどの産生を促進し,炎症の消退を促進する。
  • 炎症部位の血管内皮などでは,EPAがアスピリンの作用を受けたアセチルCOX-2の作用により変換され,さらに好中球によりレゾルビ ンE1へ変換される。

総説:炎症消退に関わる脂質メディエーター
(日集中医誌 2010;17:269~278.)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsicm/17/3/17_3_269/_pdf

ただしアスピリンは長期間服用し続けることはできません。ここぞという時のキメで使うので、その時のために普段からEPA.DHAを摂取し、細胞膜の組成をn-3系優位にしておきたいものです。

これにより理論的には、体を炎症性体質から脱却させることができます。

炎症性体質からの脱却

私たちは医学教育の初期に、炎症とは何かを学びます。

炎症とは「発赤・腫脹・疼痛・機能障害」を引き起こす、わかりやすい現象です。

そして昨今注目されているのは、それらに気がつかない程の小さな炎症です。具体定的には、歯・喉・胃腸・血管におきる「慢性の炎症」です。

なぜ注目されているのか、それは炎症とは炎症が起きているその部分だけの問題ではなく、全身に炎症反応が巡り悪影響が出ることが解ってきたからです。特に癌と慢性炎症の関係は以前より指摘されていますが、その改善にもEPAやDHAは注目されています。

またアスピリンを多く飲む人に癌が少ないという研究報告があります。癌の原因が慢性炎症の持続と考える人が多いのですが、であればこの話には整合性があります。

抗炎症は歯科では主に歯周病の治療・根管治療・入れ歯の維持・インプラントの維持に重要と考えられますが、先にご覧いただいたEPA/AA比が示すように、ほとんどの方が炎症性体質で、不利な状況にあることが伺えます。

安価なEPA.DHA製剤は安全か?

現代人のEPA.DHA摂取量はとても少ない、では毎日魚を食べれば良いのでしょうか?

実はそれでもぜんぜん間に合いません。ここはサプリメントに登場していただく事になります。

EPAもDHAも原材料は魚ですから、水銀汚染を完全に排除しなくてはなりません。

例えば健康保険で使われるEPA製剤は、水銀汚染が深刻な日本近海で獲れた魚は使わず、南米に専用工場を作り、そこで獲れた魚を原材料にして安全性を確保しているのだそうです。それだけコストがかかっています。

すると、ドラッグストアなどで売られている安価なEPA.DHA製剤は、どこまで安全なのでしょうか?私はそれが心配です。

またEPA.DHAはとても酸化しやすいので、製造はもちろん流通まできちんちとした品質管理が必要です。

従いまして私たちが扱うEPA.DHA製剤も、医薬品と同等の品質のものに限られます。安心してご使用ください。

なお両者の使い分けですが、一般的にはEPAを、脳への効果を強く期待したい場合はDHAをお勧めしています。

炎症は外科医の目にとまりやすい要因だけで規定されるものではない

先の文献には、たいへん示唆に富んだ文言が並んでいます。

  • 炎症性生体反応は本来,外的障害に対する生体の生理的な応答反応であり組織修復,免疫活性化に重要な役割を担っている。
  • しかし,炎症性生体反応が相対的過剰となると,その生体に有益な反応とは逆に免疫抑制, 臓器障害を惹起し,病態を悪化させる。
  • 手術侵襲によって惹起されるさまざまな生体反応には,手術操作による直接的組織破壊による侵襲のみならず,術中の出血,循環動態・体温の変動,麻酔,輸血 などのさまざまな要因が関与しており,単に鏡視下手術の施行や手術時間といった外科医の目にとまりやすい要因だけで規定されるものではない。
  • 低侵襲手術を行うためには,先述の外科医側からみた要素のみではなく,実際の患者に惹起されている生体反応を十分に知り,さらなる理解を深めるための努力が不可欠である。

鏡視下手術とは、顕微鏡を用いた低侵襲(患者さんの負担が少ない)手術の事です。

私もほとんどの治療を顕微鏡を使って行っています。理由は低侵襲で、結果が良いからです。

しかしそれだけではないんだヨと言っています。

すなわち、自己の技術に溺れる事なく、生体の能力を引き出す工夫をするのも医師の重要な役目である、と。

顕微鏡を使っている歯科医師のみなさん、ぜひ肝に命じておきましょう!

効果の発現に時間はかかるが

いかがでしたでしょう。ちょっと難しい説明になってしまいましたが、脂質の話はとても複雑でこうなってしまいました。

EPA.DHA製剤を摂っても、細胞膜の組成が変わりはじめるのは最低でも3ヶ月、場所によっては数年かかります。ですから即効性があるわけではありません。

しかし歯のメンテナンスは長期に渡ります。例えばインプラントは5年目くらいまでは調子が良くても、8年目くらいからインプラント周囲炎の傾向が目立ち始めるという報告もあります。

EPA.DHA製剤の歯科での有効性にはまだエビデンス(科学的な根拠)があるわけではありません。しかしエビデンスが出始めてから使うようでは遅すぎます

理論的な有効性は揃っていますし、全身へも好影響が十分期待できます。ぜひ皆様も採血でEPA/AA比を測り、積極的な健康管理にお役立てください。

吉田歯科診療室デンタルメンテナンスクリニックは、歯科口腔外科治療に栄養療法を積極的に併用し、長期的な歯・噛み合わせの管理を推進しています。

また歯科口腔外科の対象外の症状(副腎疲労・PMS (月経前症候群)・不妊・うつ・統合失調症・ ADHD・アルツハイマー・慢性疲労・腹部膨満・糖尿病・骨粗鬆症・乾癬・ア レルギー・筋痛性脳脊髄炎・癌など)のご相談も承っています。詳しくは以下よりご連絡ください。

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